|
それでも美味い夕飯を食べていると、手塚の機嫌は徐々に良くなった。 この和食居酒屋には何度か二人で来ていた。 手塚に教えてもらった店だったが、料理も日本酒も絶品で俺も気に入っている。 つくねを美味そうに頬張る手塚を見ていたら、合い鍵も渡せるかもしれないと思った。 脈絡のなさも酒で飲み込んでしまえると。 だが、今日に限って手塚の口は止まらなかった。 そこに割り込めるほど口が達者ではない俺はまた言いそびれる。 キーケースから外した同じ形をした鍵のうちの一つを、ポケットの中で暖めるだけだった。 「あ〜食ったし飲んだ飲んだ!…お、ちょっとアレやろうぜ!」 店から出た後、ゲームセンターのUFOキャッチャーに興味を惹かれたらしく、駆け寄って俺に手招きをする。 明日は早く起きなければいけないが、少し遊ぶぐらいなら問題ないだろう。 「ほら、あんたやってみろよ」 「俺はいい。やったことがないから、取れる気がしない」 「へぇ、そんなら尚更やっとけよ」 いつものように何か企んでいるような、にやにやした顔。 何が『尚更』なのかはよくわからないが、先程は怒らせてしまったようだから、ここは素直に聞こうと思う。 握った鍵から手を離して、適当に目についた台にコインを入れる。 実際にやるのは初めてだったが、わかりやすい図とボタンの番号で動かし方は一目でわかる。取りやすそうなものを狙い、横、縦と操作する。ビギナーズラックか、運よく胴体部分を掴んだものの、ぬいぐるみはするりとフックから逃げた。 「駄目だ。フックが引っかからない」 「あー、アーム設定弱ええなこりゃ。でもこういうのはやり方があるんだ」 相変わらず大げさな身振り手振りで説明し、コインを入れる。 動かす様子を見ていると、どうやら俺が取ろうとしたものを狙っているらしい。 しかしフックはぬいぐるみの少し横で止まった。 「あれでは挟めないのではないか?」 「いいから見てろって」 ゆっくり降下したそれは予想通り横に着地する。 しかし開いたフックが背中を押し出すようにすることで、ぬいぐるみはころりころりと穴の方へと転がって、落ちた。 目から鱗が落ちたような気分だった。 「…こんなやり方もあるのか」 「ああ、一発で取れんのはなかなかねえけどな。おらよっ」 下から取り出したぬいぐるみを手塚はこちらへと投げる。 なんともいえないような顔をした黄色いライオン。 ふわふわとした手触りは何かを連想させた。 「俺が貰っても仕方がないと思うんだが」 「別にいいだろ。あんたん家殺風景なんだからよ。枕元にでも置いときゃいいだろ?」 最近では殺風景でもない。お前のせいで。 そう言う前に手塚はまた別のゲームの方へと向かう。 黙って俺はその背中を追う。 |
| << 前記事(2010/06/15) | ブログのトップへ | 後記事(2010/06/16) >> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|
| << 前記事(2010/06/15) | ブログのトップへ | 後記事(2010/06/16) >> |