小唄毬杖

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<<   作成日時 : 2010/06/15 23:06   >>

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それでも美味い夕飯を食べていると、手塚の機嫌は徐々に良くなった。

この和食居酒屋には何度か二人で来ていた。
手塚に教えてもらった店だったが、料理も日本酒も絶品で俺も気に入っている。
つくねを美味そうに頬張る手塚を見ていたら、合い鍵も渡せるかもしれないと思った。
脈絡のなさも酒で飲み込んでしまえると。

だが、今日に限って手塚の口は止まらなかった。
そこに割り込めるほど口が達者ではない俺はまた言いそびれる。
キーケースから外した同じ形をした鍵のうちの一つを、ポケットの中で暖めるだけだった。


「あ〜食ったし飲んだ飲んだ!…お、ちょっとアレやろうぜ!」


店から出た後、ゲームセンターのUFOキャッチャーに興味を惹かれたらしく、駆け寄って俺に手招きをする。
明日は早く起きなければいけないが、少し遊ぶぐらいなら問題ないだろう。


「ほら、あんたやってみろよ」

「俺はいい。やったことがないから、取れる気がしない」

「へぇ、そんなら尚更やっとけよ」


いつものように何か企んでいるような、にやにやした顔。
何が『尚更』なのかはよくわからないが、先程は怒らせてしまったようだから、ここは素直に聞こうと思う。
握った鍵から手を離して、適当に目についた台にコインを入れる。
実際にやるのは初めてだったが、わかりやすい図とボタンの番号で動かし方は一目でわかる。取りやすそうなものを狙い、横、縦と操作する。ビギナーズラックか、運よく胴体部分を掴んだものの、ぬいぐるみはするりとフックから逃げた。


「駄目だ。フックが引っかからない」

「あー、アーム設定弱ええなこりゃ。でもこういうのはやり方があるんだ」


相変わらず大げさな身振り手振りで説明し、コインを入れる。
動かす様子を見ていると、どうやら俺が取ろうとしたものを狙っているらしい。
しかしフックはぬいぐるみの少し横で止まった。


「あれでは挟めないのではないか?」

「いいから見てろって」


ゆっくり降下したそれは予想通り横に着地する。
しかし開いたフックが背中を押し出すようにすることで、ぬいぐるみはころりころりと穴の方へと転がって、落ちた。
目から鱗が落ちたような気分だった。


「…こんなやり方もあるのか」

「ああ、一発で取れんのはなかなかねえけどな。おらよっ」


下から取り出したぬいぐるみを手塚はこちらへと投げる。
なんともいえないような顔をした黄色いライオン。
ふわふわとした手触りは何かを連想させた。


「俺が貰っても仕方がないと思うんだが」

「別にいいだろ。あんたん家殺風景なんだからよ。枕元にでも置いときゃいいだろ?」


最近では殺風景でもない。お前のせいで。
そう言う前に手塚はまた別のゲームの方へと向かう。

黙って俺はその背中を追う。

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